74人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
翌日。
面会時間と同時に病室に駆け込んだ、琉生。
ユキは、花に囲まれていた。
琉生「ユキ!」
息を切らす琉生を、ユキは寝たまま見る。
ユキ「一体、どうしたの?」
琉生「大事なことを聞き忘れたんだ」
ユキ「何?」
琉生「赤ん坊は、男の子だったのか?女の子だったか?」
ユキ「…ぷっ!あははっ!いたたたた…
もう琉生!笑わせないで!傷が痛いの!」
琉生「わ、笑わせたつもりはない!」
ユキ「自分の子供の顔まで見たのに、分からないの~?」
ユキは、わざと意地悪な笑みを浮かべる。
琉生「分かるか!赤ん坊なんて、みんな同じにしか見えない」
ユキ「女の子よ」
琉生「…女の子」
ユキ「可愛い、可愛い、女の子。
でも、ゆくゆくはお嫁に行っちゃうね」
琉生「嫁になんかやるか」
不服そうな表情をした琉生は、ユキの傍に座る。
琉生「傷、痛むか?」
ユキ「うん。
収縮剤使うんだけど、もう激痛…」
琉生「大丈夫か?」
ユキ「大丈夫。歩かないと、赤ちゃんの所まで行けないしね」
琉生「連れてきてくれないのか?」
ユキ「無理よ。私だけ特別ってわけにはいかないわ。
ここは、赤ちゃんがお腹空かせたら、ママが呼ばれるっていうシステムなの」
琉生「ユキは特別だ。
俺が、上と話をつけてきてやる」
立ち上がる琉生をユキは止める。
ユキ「だーめ。みんな一緒」
琉生「だが…」
ユキ「いいの」
琉生は、諦めたように座る。
ふと見ると、病室は溢れんばかりの花々で埋め尽くされている。
琉生「この花たちは?」
ユキ「朝早くから、色んな所から、届きっぱなしよ」
琉生は花の近くへ行く。
琉生「大神…、蒼井…、瀬名翔、咲…、蒼井真央…
みんなもう知ってるんだな」
ユキ「蒼井さんね、きっと」
琉生「ああ」
琉生は、一輪の花を取ると、ユキの左耳に差した。
ユキ「なあに?」
琉生「愛してる」
ユキ「どうしたの?」
琉生「どうもしないさ」
そして、静かなキスを交わした。
.
最初のコメントを投稿しよう!