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ユキ「だから、悲しくとか、形のないものを言われたって、分からないわ」 月島「まぁいい。早く、サイドビジネスは辞めると言え」 月島は椅子に座ると、書類を広げた。 ユキ「ちょっと!人の部屋で何してんの?」 月島「俺は忙しいんだ。仕事をする」 ユキ「自分の部屋でやれば?」 月島「サイドビジネスを辞めると言うまで、俺はここを動かない」 ユキ「ふざけないで」 月島「こっちのセリフだ」 ユキは怒ったように、溜め息をつくと、ベッドに横になった。 月島「今回のことは、お前が見せた隙だな。 完璧に仕事をこなす、お前が見せた隙だ」 ユキは聞こえないフリをして、布団を被った。 夢を見た… 蝉が泣き叫んでいるような夏の日 夏でも水が冷たい小川 「お兄ちゃん!」 「ユキ!」 「どこ行くの!?」 「都会だよ」 「すぐ帰って来る?」 「…必ず迎えに来るから、待ってろよ」 「分かった」 兄は約束通り、迎えに来た。 10年かかったけど、迎えに来てくれた。 おばさんの家で色々あったけど、お兄ちゃんがいつか、迎えに来てくれるという信じる気持ちが、私を支えた。 親に捨てられた私達は、いつも汚いネコのように、丸まって、怯えて、その日暮らしをしてた。 でも、お兄ちゃん。 お兄ちゃんの笑顔が大好きで、毎日が怖くても、一緒だったら大丈夫だった。 いつも「いいから、お前食べろ」が口癖で、いつも笑ってた。 …暑い やっぱり、夏だね。 暑い。 遠くで、ピピッと何かが鳴った。 ユキは、そっと目を開ける。 .
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