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「わざわざ、お出で頂き、申し訳ない」
ユキの兄が入院する病院の院長は、人の良さそうな、白髪の男性だった。
月島「いえ。警戒されるのも当然です」
「それで、月島さんが当院に、どういったご用件で?」
月島「3階病棟に、呼吸器を付けた患者さんがいると思うのですが…」
「呼吸器?
あぁ!あの若い男性か」
月島「彼を個室に移して欲しいんです」
「個室に?」
月島「もちろん、個室代がかかるのも承知です。
個室代だけでなく、今後、彼にかかる医療費の全てを当方で負担させて頂きたい」
「しかし、また何で?」
月島「今の大部屋では、同室患者さんに迷惑がかかります」
「では、他の患者のことを思ってってことですか?」
月島「いえ。私は、そんなに緩い人間ではありません。
他患者から、彼の妹に「迷惑だ」と言われる前に対処したいだけです」
「失礼ですが、彼の妹さんとは?」
月島「彼の妹は、うちの使用人なんです。
よくやってくれるので、これくらいはと…」
「そうでしたか」
月島「それから、もう1つお願いが」
「はい」
月島「彼の妹には、私がここに来たことはおろか、うちが、医療費を負担していることも、個室を希望したことも伏せて下さい」
院長は、しばらく考える仕草をした後に微笑む。
「分かりました。何か訳がおありなのでしょう。
うちとしても、悪い話ではありませんからね。協力させて頂きます」
月島「ありがとうございます。
彼のことで、何かあれば、ご一報下さい。
可能性があるなら、高額医療でも、先端治療でも、うちは構いませんから」
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