別れ

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ユキの兄の葬儀は、3日後に決まった。 月島は、ユキの兄が亡くなった日から、ユキの部屋のソファで寝るようになっていた。 ろくに食事をせずに、 穴をあけないと言っていたメイドの仕事もままならない、 そんなユキが心配だった。 でも、1番の理由は、ユキは夜、うなされて泣いて起きる。 その時に、傍にいてやりたい。 ただ、そう思った。 そして、夜中。 小さな明かり1つのユキの部屋に泣き声が響く。 ユキ「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」 月島は、急いでソファから飛び起きると、ユキのベッドに乗り、起き上がっているユキを抱き締めた。 ユキ「いや!お兄ちゃん!逝かないで!待って!」 薄暗い中、ユキはろくに目も開けず、布団を握りしめている。 月島「ユキ。大丈夫だ」 ユキ「お兄ちゃん! …お金…、お金なら、私が持って来る!」 月島「ユキ。大丈夫。俺がいる」 ユキには、月島の言葉が聞こえないかのように、携帯電話を探し始める。 ユキ「お金… 社長に電話する!」 携帯電話を探すユキの手を掴んで、月島は抱き締めたまま、ユキの耳元で言い聞かせる。 月島「あの男は必要ない。 お前は何も心配しなくていい。俺が傍にいてやるから、安心するんだ」 月島の言葉が、やっと届いたかのように、ユキの全身の力が抜けていく。 それでも、月島は、ユキを抱き締め続けていた。 どれくらい、そうしていたのか… ユキから静かな寝息が聞こえる。 月島は、そっと、ユキを横にすると、ユキの寝顔を見る。 涙の跡をそっと拭って消した。 ユキの唯一の肉親の兄。 ユキの中で、その存在が大き過ぎて、ユキの兄でも、憎くなってしまいそうだ。 月島は、ユキの布団を整えると、ソファに戻った。 ひどい時には、朝まで同じようなことを4~5回繰り返すこともあったが、それでも、月島は苦ではなかった。 何度でも抱き締めて、ユキの耳元で囁き続けた。 .
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