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これは、百八十年以上昔まで遡る話―――。
その頃のとある国では、異種族に対する差別と偏見が蔓延していた。ある時は虐げられ、またある時は奴隷として売買され酷使される。それにも関わらず当時の国の帝とその重鎮は何も対策をとらず、むしろそれらを黙殺している有り様であった。
――そんなとある国の辺境の地に位置する小さな集落『カザナオ』。異種族差別や偏見の煽りも逆風もないその集落に住む人間と異種族は、互いに手をとり合い助け合って暮らしていた。
蛇を使役する生粋の呪術師の家系で生まれ育った少年は、両親の家柄も関係して異種族に理解のある人間だった。純朴で心優しい少年の周りには人間も異種族も関係なく、絶えず友達が集まった。
その友達の中でも、一際仲が良かった少女がいた。少女は天界人――所謂“天使”と云われる異種族で、家も隣同士であることから家族ぐるみで交流があった。
「僕はとおさまやかあさまのようなりっぱな呪術師になって、みんなの役に立つのが夢なんだ」
そんな少年の言葉に少女は驚いたような表情をして「呪術師でも、人を助けたり幸せにすることができるの?」と尋ねると、少年は答えた。
「かあさまがね、呪術の中には人を助けたり幸せにするものもあるって言ったよ。だから早く立派な呪術師になって、まずはこの村のみんなを助けるんだ」
己の夢を語る少年の目は宝石ガーネットのように光輝いていた。
また、少年の話を聴く少女も幸せそうに微笑んでいた。
しかし、そんな平穏で幸せな日々はそう長くは続かなかった。
少年の一族の人間は皆、十歳になると“蛇降ろし”と云うこの先己の傀儡として使役する大蛇を召喚する洗礼の儀式が執り行われる。十歳になった少年も例外なく、その儀式に出席するためカザナオ周辺の森遺跡に出向いていた。
しかし儀式が終わった直後、不吉な知らせが舞い込んできた。
――カザナオに異種族狩りの人間達が現れた、と。
胸騒ぎを覚えた少年は両親の制止を振り切り、カザナオへ戻った。
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