10月1日

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 そんな話を聞かされ、しかし……と続けた父の淡々とした口調と真顔を思い浮かべる。  「しかし、直子さんは勘当の身で自由だったが、実家であるG県の旧家・眞野家の正統な後継者でも有るのは変わらないから、もしかして、当主に何か有れば、遺産相続等に巻き込まれる可能性が有った」  「遺産相続? お母さんの実家はそんなに凄い家なの?」  義父の話に、優子は目を丸くした。  「莫大な……というわけでは無いが……それなりにあるらしい。直子さんは亡くなってしまったが、優子が居るからな。既に亡くなっている直子さんのお祖父さんという方が、何人もの孫の中で直子さんを可愛がっていたらしくてなぁ……。直子さんに眞野家を継がせる為に、娘婿である直子さんのお父さんに、跡を継がせたらしい」  それが嫌で、直子は大学を自分で決めて家を出てしまったわけだ。  「つまり、お母さんが継ぐ事を条件に、私のお祖父さんにあたる人が、家を継いだのね。で、ゆくゆくはお母さんに家を譲った。でも、お母さんが居ない今……」  優子は、考えを纏めるように話して、ハッとした。  「もしかして、その相続権って……私に有るの?」  「そこまでは、解らないが……。可能性としては、直子さんのお父さんが、自分の娘に継がせようとしていて、娘が居ない事を知って、孫で有る優子に継がせよう……と考えるのは想像出来る。最も、直子さんは勘当された身だし、優子を継がせるなら、もっと早くにそんな話になっているだろうし、中学卒業の今でも話が全く無いから、これから先も無いとは思うけど」  利夫の口調は、最後には希望的観測も入った明るいものになった。優子も、「確かにそうだね」と笑っていた。  そんな事を甲樹は思い出していた。夏に丙司が勤める弁護士事務所に、優子について、依頼をしてきた者が居る……という事を、丙司から聞いていた。優子の居場所や素行についてを調査したい者がいる。ということは、優子の生い立ちを知っている者がいる訳で……。  必然的に、思い起こされるのは、優子の実母・直子の実家である眞野家に何か有った、ということだろう。優子の調査を依頼してきたのは、眞野家の人間かもしれない。  憶測だった為に、優子には言わず、兄弟だけが知っていたのだが、もしかしたら優子に話しておくべきだったのだろうか。甲樹は、深くため息をついた。
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