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自分を責めて泣く、真緒の両肩を強く押さえた拓真は、ゆっくりと真緒に言い含める。
「落ち着いて。君のせい、じゃないから。多分タイミングを見計らっていたんだと思う。彼女が1人になる瞬間を」
「タイミング……?」
真緒は心細そうな顔で拓真を見た。拓真は強く頷く。
「いつも、彼女は定刻通りに動かない。探偵という職業のせい、だ。毎朝ここに来る時間は決まっているけれど、その時間帯は、人通りがある。定刻通りなのは、朝だけ。それ以外はまちまちで、君の言う高級車がしょっちゅう、この辺りにいれば、目立って仕方ないから、本当に何回か、待ち伏せしていただけ。今日は珍しく人通りが少ない上に、君と2人だったから、もしかしたら……という確率に賭けただけ。だから。君のせいではないよ」
拓真の落ち着いた言葉に、ようやく真緒も落ち着いて、拓真が出した紅茶に口を付けた。
甲樹と乙也が事務所に入ったのは、そんな時だった。それから、丙司・克己・晴己も続けて入る。その顔色は悪いのに、誰1人として、真緒を責める言葉は、出ない。
もちろん、真緒のせいでは無いと解っているからだろう。泣きじゃくる真緒を落ち着かせようと、甲樹が落ち着いた声で真緒を労った。それから同僚の刑事に電話をかける。真緒を家まで送るように頼んだ。
甲樹は、やがてやって来た同僚に真緒を託し、真緒には必ず優子は見付かるから大丈夫。待っていて欲しい。と告げて見送る。
その一連の動作を見ていて、拓真は、自分の直感を確信した。
優子が誘拐される理由が有ると知っていたのだ、と。優子自身はそれを理解していたのか、知らなかったのか。そこまでは解らないが。
「覚悟が、有ったんですか?」
拓真の静かな切り出しに、甲樹は真っ直ぐ、そして同じくらい静かな目で、拓真を見た。
「もしかしたら、こうなるかもしれない。と思っていた。いつか。……来なければ良いと、俺達も両親も願っていた」
ふぅっと肩の力を抜いて甲樹が言うと、5人は互いの顔を見合せて、肩を落とした。
何をどこまで、いや、どこから話せば良いのか解らない。という顔で。日没までには、必ず事務所へ行く。と言った孝作が来るまで、残り数時間。先ずは、優子が拐われた時の事を話そうと、拓真は口を開いた。
「木場真緒嬢の話をそのまま伝えます」
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