42人が本棚に入れています
本棚に追加
「…あんたは、あたしのこと何もきかないの?」
夕飯を食べ終わったあたし達は、温かいお茶を飲みながら、食後の一服。
猫のあたしは、勿論冷めてからじゃないと、飲めないけど。
「別に…話したくなったら、話せば良いんじゃねぇの」
「……そうだけどさ」
「なんだ?今話したいっていうんなら、聞いてやるぜ?」
「いまは…いい」
あたしがそう言うと、お偉いさんは、あっそ。と素っ気なく答えるだけだった。
少しの沈黙が流れてから、先に口を開いたのはお偉いさんだった。
「俺はさ、…俺の名前は、土方歳三ってんだよ」
「としぞう…?」
「おう。だから、あんたじゃなくて…名前で呼べ」
「う、うん。としぞう」
あたしは呆気にとられて、思わず呼び捨てで呼んでしまった。
でも、お偉いさんは…歳三は特に気にする様子もなく、言葉を続けた。
「それでだ。…色々考えたんだけどよ。……ち、…千景なんてのはどうよ?」
あたしは何の事かさっぱりわからず、首をかしげてみせた。
「あ~…だから、、、名前だよ」
あまりにも小さな声で言うもんだから、
全然聞こえない…!
「え?」
「だからぁ…名前だよ名前!お前の名前!」
「…え?」
あたしの、名前?
「お前は、此処に来るまでに、色んな景色を見てきたんだろ?…綺麗な景色も汚い景色も」
「……」
「汚ねぇ人間たちも。…だけどな、これからはお前に、今までとは全く違う景色を見せてやる」
「俺と、俺の生き様を思う存分見せてやる。……つーのはまぁ、冗談で。お前にはこれからも沢山の景色を見て欲しいって思ってよ」
「だから、千に景色の景で千景(ちかげ)。…良い名前だろ?」
沢山の景色を…
見ても良いの?
そんな素敵な名前を、あたしにくれるの?
最初のコメントを投稿しよう!