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「あ!猫ちゃん!」
総司のその言葉で、俺はやっと視界を遮ったものの正体がわかった。
俺は視線を前に向けると、少し離れた所にちょこんと座る黒猫が目に入った。ただし、ただの黒猫だ。
「おい総司。これのどこがただの黒猫じゃない、なんだ?」
「へへへー。まぁ見てて下さいね」
そう言うと総司はしゃがみこんだまま、驚愕の言葉を発した。
「どうぞ、元の姿になって下さい。人間の姿に」
「そ、総司…お前何言って…」
くだらねぇことで俺をからかいやがって。
猫が人間になんてなるわけねぇだろ。
ぶつぶつと文句を言いながら総司に拳骨をくらわそうとした、その時。
ほんの数秒の出来事だった。
俺は、俺には、とても信じがたい光景だった。
さっきまでそこにいた黒猫が姿を消し、代わりに、女が立っていた。
人間の女が。
黒い装束に身を包み、女には珍しい黒い短い髪。
まわりの黒が、より一層肌の白さを際立てているように思えた。
ぼうっと立ち尽くす俺のことなどお構い無しに、総司は自慢気に言った。
「ね?ただの黒猫じゃないでしょ」
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