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「……こんな日なのにお一人様を入れてくれるなんて親切なのね」
ロゼの注がれたグラスを口許に運びながら、私は言った。
お世辞にも広いとは言えないカウンターの向こうでは、私の寂しい皮肉を受け取ったマスターがトニックウォーターのキャップを開けながら唇の端を曲げる。
「こんな日だからこそ、ですよ」
言い終えてから彼は、私が持つグラスを掌で示した。
「でなければ其方にあるのはきっとワイングラスではなく、いつものビアタンブラーでしょう?」
「たまにはワインだって良いじゃない」
「えぇ、黒いドレスにワインの赤が映えて美しいと思いますよ。……そうですね、ライムでも添えたら完璧かも」
トニックウォーターを冷蔵庫へと仕舞うマスターの後ろ姿が、小刻みに揺れている。
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