聖夜に乾杯

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「世知辛いわね」 呟きざまにワインを呷る。 「えぇ、何かと」 短く返したマスターは、出来上がったジントニックをトレーに載せてカウンターから出た。 見飽きたカウンターの奥の景色から目を逸らし、私は彼の歩み寄ったテーブルを見やる。 「……どうも。本当にお一人様にも優しいバーですね」 グラスを受け取った客の男の声が、やけにはっきり耳に届く。 何の変哲もないスーツ姿同様、特にこれといった特徴もない声音だった。 そして言葉通り、彼もまた独りでせせこましいスツールに腰掛けていた。
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