5人が本棚に入れています
本棚に追加
さっき話題に出て来たその転校生とやらは、龍之助の言っていた通り、偉い美人だった。腰まである長い黒髪に、睫毛の長いクリッとした目に、真っ白い肌。なんかのお伽噺にでも出て来そうだ。
「城ヶ崎恵萠」
透き通るような声で静かに自己紹介をして、指定された自分の席へと向かう。〔じょうがさきえめ〕と読むらしい。こりゃまた珍しい名前だな。僕も他人に言えんのだが。
久保山正義〔くぼやままさよし〕が僕の名前なのだが、至って平凡に見えるようで、これがまた厄介なのである。下の名前の漢字のせいで僕のアダ名は見事に〔せいぎ〕になり、気付けばクラスメートにも教師にもそう呼ばれるようになった。ひとつ言わせて貰うが、迷惑極まりない。親に文句の一つや二つ言ってやりたいが、両親共に既に不在。小学校の頃からこの冷め切った性格と名前のせいで、〔名前負けしている〕と言われ続けてきたもんだ。正義だが悪だか知らんが、僕はとにかく自分に無関係なことはしない。それが面倒臭いことなら尚更だ。例えば、か弱そうな女子が、不良どもにカツアゲを受けているとする。そこに通り掛かった僕は、
「その子を離すんだ!!弱い者苛めは良くない!!」
なんて言って正義感振りかざすなんて馬鹿げたことはしない。只普通に通り過ぎる。人間、実際問題それが普通だ。なのに何処かの女子は「正義の癖に助けないなんて」とか「名前と正反対」とか言ってのける。さっぱり訳が分からん。何故僕が正義の味方を、ましてやこの町のヒーロー的存在にならなきゃいかんのだ。
最初のコメントを投稿しよう!