◆第1章◆

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とにかく、そんなことを言われるのも面倒臭くなってきた今日この頃。然り気無く面倒臭いことを回避しながら今日もまた何の変哲もない1日を過ごし――― 放課後、僕はツレ二人に用事があると断り、この馬鹿高校の屋上に来ていた。高く張り巡らされたフェンスに足を掛け、向こう側へと渡る。そこから見る町の景色は何とも表現のしようがない絶景だった。広大な空は、既に茜色に染まっている。 風が気持ちいい。僕は目を閉じると、暫し春の生暖かい風を感じた。 さて、飛び降りるとしよう。 そう思って目を開けた時、背後から突然声がした。 「何してるの」 偉く感情の込もっていない声だった。…誰だ? 振り向いた先には、漆黒の長い髪を春風に靡かせた、綺麗な少女が立っていた。確か…今日来た転校生だ。 「…………泣いてる」 僕と目が合った城ヶ崎は、小さな声でそう言った。泣いてる…だと?誰が?僕がか? 「失敬な。泣く訳ないだろ」 「泣いてる。世界が、泣いている」 ……はぁ?何を言っているんだこの女。頭がおかしいのか?ま、春だし珍しくもないが。 「何言ってんだ?シャレにならんぞ」 「エメには、分かる。世界が、泣いている」 僕は話にならんと思い、前に向き直った。だが、風の音が誰かの泣き声に聴こえなくもないな、と思って再び振り返り、城ヶ崎に問い掛けた。 「もしかして、風の音のことを言ってるのか?」 「違う」 即答かよ。 「じゃぁ、何だ、なんて聴こえるんだ?」 「助けて、って」 あぁ、駄目だ。完全にイっちゃっている。 「砂漠化や温暖化のせいで、地球が泣いている。全部、人間のせい」 …僕が責められているみたいで、嫌な気分になって来た。 「それと、人間の自殺、悲しいって、言ってる」 その言葉に一切感情は無かった。でもその表情は、何故か悲しそうに見えた。城ヶ崎は町の景色に向けていた視線を僕に戻し、仔犬のような無垢な瞳で見つめてくる。 「もう、見たくない。死なないで、って」 僕達二人の間を、柔らかな風が通り過ぎて行った。 ………気がそがれた。 僕はフェンスを乗り越え、城ヶ崎を置いて校舎の方へと戻った。変な女だ。世界を理由にして自殺を止めるなんて、普通の人間ならそんなこと誰にも思い付かないだろう。話し方も微妙に変だったし。そもそもあいつ、何しに屋上に来たんだ?あーもう、訳が分からん。
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