19854人が本棚に入れています
本棚に追加
それから2人は、入念な話し合いを行った。
どんな精霊にするのか。何匹喚ぶのか。契約はどうするか。必要な魔力はどの程度か。何を与えるか。
今のダンジョンに必要なのは、個の力でなく軍の力だ。故に、1匹2匹喚んでも話にならない。
戦力になり、命令を聞き、必要な魔力の少ない精霊。
数時間におよぶ話し合いが終わる頃には、日はすっかりと落ちていた。
フールはそれから魔法陣を描き、グネを呼び出す。
「お呼びでしょうか、主様」
「ああ。グネ。聞くが、お前は純潔か?」
質問の意味が分からなかったのか、グネは答えあぐねる。ユウはこっそりとフールの横腹を突っつき、もっと分かりやすく言えと、小声で耳打ちした。
「……あー、その、なんだ。お前が処女かどうかを聞いているのだ」
「しょ……っ! は、はい。そのような経験は、恥ずかしながらありません」
何を想像したのか、顔を赤らめるグネ。それを怒りだと解釈したフールは
(いきなりこんな質問をしたら怒るのも当たり前か)
などと見当違いの事を考える。淫魔のユウには、グネを表情の意味が分かっていたが、放っておいた方が面白そうと思ったのか、何も言わなかった。
「今より我は悪魔を召喚する。それには、純潔な者の血が必要なのだ。グネよ、数滴で構わぬから、この魔法陣の上に血を垂らせ」
そう言ってフールが差し出すナイフを、グネは僅かに落胆した顔で受け取る。
(急に血を垂らせなんて言われたら、そりゃ落ち込むよなぁ)
一つ言っておくと、フールは別に鈍感というわけではない。むしろ感情の機微には鋭い方だ。
なぜこんな見当違いな考えばかりするかというと、彼は魔物──エリートゴブリンが人間に恋をするなど、夢にも思ってないからである。
その固定概念がある限り、フールがグネの気持ちに気づくことはない。
「……これでよろしいですか?」
ナイフで指先を切ったグネは、魔法陣に血を垂らす。途端に、魔法陣は輝きを帯びた。
最初のコメントを投稿しよう!