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グネへ、さっきとは別の魔法陣に血を垂らすよう言ったフールは、自身も本を片手に呪文を唱え始める。
なぜ精霊の中でも悪魔を召喚するのか、理由は単純だ。悪魔の方が契約を結びやすいからである。
中位以上の精霊は会話できる者が多く、精霊によってはプライドが高いものもいる。ただ魔力を吸う権利を与えるだけでは、協力してくれるか五分五分なのだ。
しかし、精霊には魔力以外に交渉のカードはない。それに比べ、人間にあだなす悪魔には、様々な交渉のカードがある。
人間の魂を要求する者、純潔な者の血を要求する者、単に戦いの場が欲しい者、性欲の強い者。与えられる物のバリエーションが結構存在するのだ。
長い呪文が終わると同時、魔法陣の中から、赤い影が現れた。
それは、オニと呼ばれる悪魔。
体躯は人間に酷似しており、身長は目測でも2メートルを軽く超えている。全身が筋肉の鎧に覆われ、赤い肌はまるで返り血を浴びたかのよう。
一切の毛がない頭部には、ユウのものより小さいが、一対の角が生える。
分かりやすく表現すると、上半身裸でガチムチなスキンヘッドの真っ赤な男である。
ユウとグネの表情が曇るのも、当然の流れだった。
オニはフールの胸回り程もある太い腕を組み、厳つい顔で彼を見下ろし、見た目に違わない低く荘厳な声を出す。
「儂を喚んだのはお主か?」
「いかにも。オニよ、我と契約を結び、その力を我に預けよ。対価は支払う」
答えるフールは尊大な口調。悪魔との契約で下手に出れば、足元を見られた要求をされる事が多いからだ。
「儂に従えと、そう言っとるんじゃな」
「そうだ」
オニは豪快に笑った。まるで、弱い人間が何を言うかと、馬鹿にしているようであった。
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