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「なんじゃ?」
「飲めよ。それから、お前の体の一部を俺に渡すんだ。契りみたいなものさ。真剣勝負をするんなら、これくらいしようぜ」
血肉による契り。実際の契約のように拘束力はないが、一種の儀式的な意味合いを持つ行為だ。
これは誇りを重んじる精霊や亜人などが決闘の前などに行うもので、戦う相手への敬意と、殺されても怨まないという誓いを表すものである。
オニは戦士の顔になり、フールの血を指ですくって舐め、自らを構成する魔力の一片をフールに送った。
血がない精霊や悪魔は、自分の魔力を送ることで、血の代用とするのだ。
「粋な人間じゃな。今時こんな契りをする奴ぁ、そうそういないぞい」
「だろうな。もう一度聞くが、お前は強い奴と戦いたいんだよな」
「おうとも。その小さい体で儂を捩じ伏せられるか?」
「ああ。お前の望み通り、捩じ伏せてやるよ。勇者の力ってやつを見せてやる」
フールは漆黒のローブを脱ぎ去り、オニと対峙する。表情を固くし、一節だけ、言葉を紡いだ。
「『共命(コネクト)』」
数分後。オニは息を切らせて地に伏していた。体も半壊しているが、このダンジョン内なら翌朝には全快するだろう。
それを見下ろすのは、無傷のフール。どこか申し訳なさそうな、微妙な表情でオニを見ている。
「ガ、ハッ、ガハハ! 強いのぉ。文句なしじゃ。儂ぁお前さんに従うぞ」
「ああ、ありがとう。そして、騙したようで悪かった。お前の力は凄まじい」
「その能力を知っとったら、契りの真似事なぞ、しなかったわな。まぁ、能力もお前さんの実力のうちじゃ。文句は言わんわ」
オニは笑い、そのまま死んだように気絶した。睡眠は必要のない精霊でも、意識を落とした方が傷の回復が早いからだろう。
フールはグネが拾って持っていた漆黒のローブを羽織り、ダンジョンマスター用の椅子に座って、大きく息をはいた。
そこに、半ばキレ気味の顔で、ユウが近寄っていく。
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