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「ウェイト! ウェェェェイト! フール、何そんなに暴露しちゃってんのさ! 僕らの正体だけでいいじゃん! 洗脳が解けたらどうするんだよ! グネは使える配下なんだから、そんな洗脳解ける切っ掛けみたいな話はしないでよ! 頼むから!」
さすがに言い過ぎだとユウが止めに入る。ここまでユウが慌てるのは珍しいが、昔はよくこんな風になっていた。フールが知らない時代の話だ。
「いや、やっぱり真実を教えておくべきだろ。それに、洗脳なんていつ解けるか分からないんだ。急に解けて裏切られるより、ここで話をして切っ掛けを与えて、裏切りに備えた方がいい」
突然仲間に裏切られる。それはフールのトラウマだ。だから、裏切られる前に裏切られるの心積もりをしておく。どかか変だが、フールの中では筋の通った理屈だった。
「はぁ……やっぱバカだね、フールは。そんなの、裏切れない環境を作ってやれば済む話じゃん。でも、分かったよ。ダンジョンマスターは君だ。君のやることに、任せるよ」
ユウは呆れたような楽しんでるような、傍目からは苦笑いに見える表情を浮かべた。
フールはグネに向き直る。
「俺は勇者で、父と兄と数多くのゴブリンの仇だぞ。お前はそれでも尚、俺に仕えるか?」
いつの間にか素の口調で喋るフールに、グネは平伏して答えた。
「私は主様──フール様に従えられることに、いささかの不満も抱きません。お父様や兄様の事は……悔しいですが」
グネは忠誠の証として、フールの足の甲に口付けし、彼の顔を見上げる。
「もしもお父様や兄様を死に追いやったのがフール様でなかったら、私はその相手を何としても殺していました。フール様だからこそ、私は憎しみを超えて忠誠を誓えます」
澄んだ瞳で、まっすぐとフールの目を見つめる。その様子からは、嘘は感じられなかった。当たり前だ。本心なのだから。
洗脳により心を作り替えられたグネは、その心を受け入れた。『堕とされた』だけの状態から、自ら望んで『堕ちた』状態へと変わったのだ。
「この命が続く限り、いえ、輪廻転生を経てもなお、私はフール様にお仕えさせていただきます」
「ありがとう。信頼してるよ、グネ」
微笑み、グネの頭を撫でるフール。常人が見たら邪悪としか形容できない微笑でも、グネにはそれが、堪らなく幸せだった。
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