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一度命令を出せば、もうする事がないフール。椅子に腰掛け、どうするかなと頭を捻る。
皆が働いている中、自分だけが休んでいるというのは、勇者としてのプライドが許さなかった。
彼の脳裏によぎるのは、いつかの雑談でユウが言っていた「ダンジョンにはボスが必要だよね。ダンジョンにボスはロマンだよん」という言葉。
「ボス……か」
おそらく自分たち4人はダンジョンの管理者なので、ボスには含まれないだろうと考えたフールは、棚からありったけの魔物に関する本を取り出す。
ボスに相応しい実力を持つ精霊を召喚する事も考えたが、魔力のコストの問題から魔物の方が良いとふんだのだ。
なかなかダンジョンのなんたるかが分かってきた勇者である。
(召喚できる魔物は下位まで……か。下位の魔物じゃボスとは呼べないよな。この森にちょうど良い魔物はいなかったしなぁ)
この森にいる魔物で最も強いのは、森の主とうたわれるホワイトタイガー。森で唯一の中位魔物だが、まだ見つけてはいない。
(もういっそ、ジャイアントワームみたいに下位魔物を成長させるか? いや、それでもなぁ。デカいだけじゃインパクトがなぁ。……うん?)
いろいろ考えながら本を捲っていたフールは、少し気になる記事を見つけた。
それは、魔物の生態を記した本に書かれていた一節。フールはそれを、口に出して読んでみる。
「『特殊な環境や状況におかれた魔物は、稀に突然変異を起こす事がある。生物とは環境に対応して進化をするものであり、魔物も生物であるのだから。また、異種族の魔物の交配でも新種が生まれることがある』……ね」
フールはこれまでの冒険や、ユウとのダンジョン作りを思い返した。
(ジャイアントワームが巨大化したのも、突然変異と呼べるのか? 栄養の過剰摂取って、特殊な状況のうちだよな)
当たりをつけたフールは、とりあえず行動に移ることにする。
まず彼が向かったのは、立ち入り禁止となっているダンジョンの最深部だ。
ここはフールの部屋よりも深い地層に新設された部屋で、フールの部屋のマスターの椅子の裏にある隠し通路からしか、入る事ができない。
ダンジョン内に彫られた彫印が集っている部屋であり、中央に描かれた魔法陣の上には、新しいマナクリスタルが安置されている。
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