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「カブトムシ?」
初めて聞く魔物の名前をおうむ返しにするフール。彼は自分がせっかく変異させて生み出した魔物にすでに名前があったことで、少し落ち込んでいた。
「あーっと、僕の世界にいた虫だよ。甲虫王者とも呼ばれてたっけなぁ。子供に人気で、一時期皆飼ってたくらいに有名なやつ」
(ユウの世界にはこんな虫系魔物がいるのか!? しかも子供が飼う!? 子供までもがこんな強そうな魔物を飼い慣らすとは……とんでもない世界だ。さすがは元魔王がいた世界なだけはある!)
フールは心の中で絶叫した。
世界間の誤解はこうやって生まれていく。
「それにしても……どうやってこんな魔物を召喚したの? 明らかに中位の魔物じゃん。しかも、上位に近いくらいの」
壁を壊したことはショックで忘れ去ったのか、ユウは不思議そうな顔でフールを見る。
その無邪気な子供のような表情に、ちょっと顔を赤く染めてしまったのは、勇者だけの秘密だ。
「あ、ああ。ジャイアントワームを突然変異させてみたんだ。本で読んで、試してみたら出来た」
「……あ~、そっか~。その手があったか~。なんで魔王時代の僕はその方法を思い付かなかったんだ~」
普通に落ち込んでしまうユウであった。この突然変異を利用すればもっと強力なダンジョンを作れたのにと、後悔しているのだろう。
「フール、よく思い付いたね。しかもご丁寧に、雄雌を番(つがい)で作ってるし。うふふ、なんかダンジョンマスターっぽくなってきねぇ」
もう気持ちを切り替えたのか、笑いながらフールにしなだれかかるユウ。彼の腕に自分の腕を絡めて、上目遣いで妖艶な微笑みを浮かべている。
(う、腕に! や、やや、柔らかいものが!)
思わず勇者の剣を抜刀しそうになるフールだったが、紳士を自負する彼は、冷静にユウに言う。
「むむむむ、むむむむ胸! あ、あた、あたって!」
訂正しよう。全然冷静ではなかった。
初な少年のような反応のフールだが、それも仕方がない。ユウは淫魔。その胸に少しでも触れようものなら、聖者でさえも欲望に溺れるのが常である。
むしろ、フールはよく頑張っている方なのだ。
「アハッ、あててんだよ。というわけで、はい、ご褒美おしま~い」
あっけらかんとフールから離れるユウ。彼女もしっかりサキュバスっぽくなってきているようだ。
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