第3話 森のダンジョンを完成させよう!

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 細い道など、これ以上なく罠を仕掛けやすい状況だろう。しかし、ここには何もなかった。 (おかしいっすね。ここまで全くと言っていい程、罠がない。絶対に仕掛けられてるはずなんすけどね)  ヤーはいぶかしみながら、周囲を見渡す。やはり何もない。何もない事が、逆に違和感となっている。 (……いや、まさか、自分らはずっと──) 「ヤー」  その時、背後から彼の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。考え事をしていたためか、誰の声かまでは分からなかったが。  ヤーは振り向きながら、返事をする。 「なんすか?」  これが、盗賊ヤーの最期の言葉となった。  胴から離れた首が、地面を転がる。一瞬遅れて、噴水のように深紅の液体が飛び散った。 「ああああああぁぁぁぁ!!」  ゾルゲが飛び出し、仲間の首を切った魔物を斧で両断する。  それは、シャドウ。真っ黒な体に鎌のような手を持つ、小さな魔物。天井に張り付いていたこいつが、ヤーを殺したのだ。  ナキアは無言で、もう1匹の潜んでいた魔物を火の魔法で燃やし尽くした。  マンドラゴラ。人間に幻聴や幻覚を見せる植物の魔物。本来は森で人を迷わせるだけの魔物だが、そこがダンジョンとなれば、幻聴ひとつでも命取りとなる。 「ヤーさん……」  エルメスが彼の頭を拾おうとするが、ナキアが優しくそれを制した。 「こいつは、帰り道で拾う。人間の頭なんか持ったまま、ダンジョンを進めるわけがないだろう」  あまりに冷めた言葉に、エルメスはナキアの顔を睨むが、その表情を見てはっとした。  真顔で、泣いているのだ。歯を噛み締めすぎたせいか、口の端からは血が流れている。  ナキアは密かに、ヤーに心を寄せていたのだ。悲しくないわけがない。悔しくないわけがない。しかし、彼女はダンジョン攻略を優先する。  それが、冒険者というものだから。 「進むぞ。俺が先頭を歩く。マイクは殿をやってくれ」  ゾルゲは誰にも顔を見せずに言い放ち、ずんずんと歩き始める。  4人になったパーティは、いっそう気を引き締めて、それに続いた。  ダンジョンは、まだ始まったばかりである。
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