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その魔物は、鎧のような殻を纏い、鋼のような脚を持った、茶色い虫系のものだった。
駆け出しであるマイクやエルメスは当然のこと、ベテランであるゾルゲも秀才のナキアも知らない、謎の魔物。
ただ、その威圧感と覇気だけは嫌でも理解できる。
「なんだ、こいつは?」
ナキアが声を漏らすと、その魔物の後ろから、1匹のエリートゴブリンの女性が現れる。
「この魔物の名はメスカブト。我が主様の生み出した新種の魔物です。この者を倒す事が出来れば、罠は解除されますので。それでは、せいぜい足掻いて下さい」
エリートゴブリンはそれだけ言い、出口の方へ消えて行った。同時に、出口も大岩によって塞がれる。
完全に閉じ込められたゾルゲたちと、メスカブト。戦うしか、道はない。
「ナキア! エルメス! 援護しろ! マイク! 左右から挟み打ちにすっぞ!」
「はい!」
左右から斬りかかる前衛の2人。ちょうど空いたメスカブトの頭に、エルメスが矢を放つ。
しかし──カンッと、鉄にでも弾かれたように、矢は跳ね返された。
「なっ!?」
気合いと共に降り下ろされたマイクの剣も、ゾルゲの斧も、鋼鉄の殻には傷一つ負わせられなかった。
「ゾルゲ、マイク、離れろ」
ナキアは短く呪文を唱え、特大の火球をメスカブトに向かって放つ。いくら打撃に強くても、魔法ならば効くだろう。皆がそう思った。
火に包まれるメスカブトだったが、軽く身じろぎするだけで、ナキアの火は消しとばされる。
大量の魔力から身を守るために進化したメスカブトの前には、これしきの魔力しか込められていない下級魔法など、無力に等しい。
次はこちらの番だとでも言うように、メスカブトはナキアに向かって突進を繰り出そうとする。
「危ねぇ!」
すかさずナキアとメスカブトの間に立ったゾルゲは、巨大な斧を横に構えて、防御の姿勢をとった。
メスカブトの巨体から繰り出される突進は、魔法を撃って隙のできたナキアには避けられるものじゃなかったからだ。
ナキアの隣に立っていたエルメスは、咄嗟にゾルゲの体に強化魔法をかける。
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