春、進級の季節

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「春だな……」 ──二年Z組、教室。 「頭の中が?」 「お前のな」 新学期早々のクラス替えから間もなく、ざわつく教室内で、普段と変わらぬ雰囲気の三人組がいた。 一人は、前髪の長い黄土色のおかっぱの、小柄で犬の尻尾を生やした地味なやつ。 一人は、黒のミニハットを弄る、黒髪長髪でギャルソンみたいな格好をした自己主張の強いやつ。 一人は、机に突っ伏して寝ている、猫耳ニット帽を被り白のセーターを着込む、細身で猫の尻尾を生やしたやつ。 三者三様に特徴的な雰囲気をかもし出す三人は、前年度、当学校創設以来初となるある伝説を打ち立てた、ちょっとした有名人であった。 「ははは兄弟、それはケンカを売ってるってことでいいのかね?」 ハットを被りなおしつつ剣呑なことを言う派手なのに対し、地味なのはため息を返事にして窓の外を眺めた。 桜の花びらが、雨のように舞っている。
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