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目の前に広がったのは夜空だった。 高いマンションだからか、いつもより星が沢山見えるような気がする。 手すりにもたれかかり、手を伸ばしてみると掴めそうな感覚に陥る。 錯覚だとわかるけれど、このまま吸い込まれてしまいそうだ。 感覚を全部なくして溶けてしまえば気持ちが良いのだろうなぁ。 ふと頭を横切った思い。 この思いは、今までにも何回も感じたけれど、何も実行はしなかった。出来なかった。したかった。したくなかった。 白い息を吐きながら、手すりを跨ぎ下を見下ろした。 高いマンション。エレベーターを使って管理人に見つかるのは嫌だったので階段を利用したのだが、25階立てだったけかな。とにかく上るのに苦労した。 眼下に広がるイルミネーションが、夜空に負けじとキラキラと輝いている。 そう云えば、今日は世間ではクリスマスイブだったっけ。 こんな日に俺はボロボロパーティーか。泣けてくるね。 空からはらりとぼたん雪が舞い降りて来た。 ホワイトクリスマスだ。 こんな夜に全てを無くしてしまうのもいいかもしれない。 全部。ぜんぶ、いらない。 痛みも悲しみも辛さも全部消えてしまえば。 あの夜空に溶けてしまえれば…… 25階の屋上。ここから一歩踏み出せば、全てが終わる。全てがなくなる。 覚悟は出来た。吸い込まれそうな夜空に向かって俺は一歩を踏み出した。
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