演奏の準備 reencuentroー最後の日常ー

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まあ、確かに異性――それも好きな人だったら尚更かもしれないが、男性の好みなんて千差万別であるからその人によるものが大きい。   僕? 僕は……どうだろう。あ……うん、まあそんなことはどうでもいいじゃないか。   とにかく、木戸の胸が揺れるにつれて、赤木の青筋はさっき以上にはっきりと、そして数を増やしていっていたのだ。   これは一体どうすればいいのだろう――僕と金城は互いに顔を見合わした。   この場合――赤木が木戸の胸で怒るケースは特別どうしたらいいのか全く分からないのだ。   過去にも同じケースはあったのだが、一体どうやって赤木の怒りを抑えたのかよく分からないのだ。きっと、忘れてしまうほど邪道を使ったのかもしれないが、とにかく今のこの状況をどうしたらいいのか、それを模索しなくてはならないのだ。   逃げればいいと思うが、逃げたら逃げたで赤木に半殺しにされるだろう。   だから、ここは処刑の時間を待つ死刑囚のように待つしかないのだ。   ああ、どうして一難去ってまた一難訪れるのだろう……元はと言えば金城が悪いはずなのに!   木戸の胸が揺れる。そして、赤木の眉間の皺が寄る――その繰り返しで赤木の怒りが絶頂まで行こうとしていた。 「ねえ……摩耶……良いわねえ……その体に付いてる肉の塊……ねえ……お姉さんが切り取ってアゲヨウカ? 重いデショウ?」   さっきもそうだったが、語尾が外国人のように片言になると、もうまずい。一触即発の状態――核ミサイルの発射スイッチに手を触れている状態――何を言っているのか分からないが、とにかくそれくらいの危機なのだ。   赤木の右手にはさっきのナイフが再び握られている。これは本当にまずい。僕の取ってきた銀のナイフが――おばちゃんが僕らのために一生懸命洗って用意した銀のナイフが赤に染まってしまう――それだけは絶対に見たくない。   怒れる赤木をはらはらと見つめる僕ら――だが、何にも無かったかのようにぼけーっとしている木戸。すごいな、木戸。ここでそんなに平常心でいられるなんて。   木戸はほんわかした雰囲気を保ちつつ、笑顔で赤木に言った。 「ほら~、夏美ちゃん。唐揚げ覚めちゃうわよ」   そう言うと、木戸は箸で上手に唐揚げを掴んで手皿をした状態で赤木の口元まで持っていった。   そして、 「はいっ、あーん」   と、赤木に食べるように促した。
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