演奏の準備 reencuentroー最後の日常ー

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赤木は疑問に思っている。まあ、当然と言えば当然だ。赤木は揶揄したつもりで言ったのだ。だが、それがかえって金城の琴線に触れてしまったのだろう。   なら、一体何がいけなかったのか……というか、僕は分かってしまったから何も言うまい。どうして分かってしまうのだろう……ああ、これは僕の恥だ。   そんな僕の思考など知るはずもない、金城は、ふっふっふ……と怪しい笑みを浮かべながら言った。 「個人レッスンという言葉はなあ……」   赤木は固唾を呑んで見守っていた。金城の言葉に独特の迫力があったからだ。 「個人レッスンというのは……?」 「美人家庭教師にしか使えない言葉なんだよ!」 「……」 「……」 「う~ん、美味しいね~」   思考が停止したように、沈黙する僕と赤木。そして何も知らない天然の木戸がスローペースで食事をしている。   夏のはずなのに、一瞬でアルプス山脈のど真ん中に叩き落とされたような気がした。   気温が氷点下になっているのか?この部屋の空調は一体どうなっている?    誰か駄洒落を言ったか? いいや、この寒さはそう言った寒さじゃない。もっと陰湿な、味わいたくもない寒さだ。   目が点になっている僕と赤木を前に、 「大体考えてみろ! 個人レッスンというのは一対一で勉強するのに使う言葉だぞ。それなのに、赤木、お前はそんなのも分からずに言葉を使っているなんて、お前は言葉を無駄にしているぞ。 いいか、個人レッスンという言葉には男の夢が詰まっているんだ!まずだな、受験を控えている学生の部屋に美人の家庭教師が来るとする。この時、絶対必要なのが眼鏡だ! 眼鏡は知的に見えるし、大人の女性という品格も垣間見ることが出来る。服は黒のスーツ、白ワイシャツに黒スカート、そして黒のニーソックス……あっ、これは破れやすいのがいいな。さらに胸は、これは好みによるが僕は大きい方がいいな! ワイシャツのボタンは外しておいて、胸の谷間が見えるようにする。そして、大胆にもその隣で際どい姿の先生に興奮する俺! もう辛抱溜まらん! と思った所に先生が、『ちょっと休憩しない?(裏声で)』と俺を誘う! もうここまで来たら分かるよな! 美人教師の誘惑に完膚無きまでに敗北して、そのままゴートゥーベッドオオオオオオオオうへへへへへへ!」
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