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金城の演説は雄叫びから卑猥な笑いに変わっていった。僕は一瞬で金城のことが気持ち悪くなって見えてしまった。僕は椅子を一歩引いた。
金城は、こんなに変態野郎だったか? あ、変態か。じゃあ仕様がないな。
対する赤木は、椅子を三メートルほど後ろに引いた。
あまりの気持ち悪さに赤木は血の気が引いていたのだろう。
「……となる! そしてラストに……ってあれ? どうしてお前らそんなに引いてるんだ?」
金城の視線に合わせないようにする僕と赤木。
「お願いだから、あたし達に近寄らないでくれる? 変態が伝染るから」
赤木は、真面目に聞いたこっちが馬鹿だったと言わんばかりの呆れと後悔が入り交じった顔になって金城にそう言った。
「なっ……ちょっと待ってくれよ! なあ、お前も見捨てないでくれよ!」
金城は最後の望みであろう僕を見つめた。うっ……そのきらきらした眼差しが気持ち悪くてしょうがない。
「……僕の友達に変態野郎なんていないし……」
と、僕が身を引くように後ろへ後退していくと、
「お前ら、見捨てないでくれえええええええええええええええ!」
金城の魂の雄叫び――負け犬の遠吠え……さすがにシチュエーションが違うか。とにかく、金城の羞恥が木霊した瞬間だった。
ああ、本当に最悪だ――そして普通の光景だ――と僕らはそう思うのだった。
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「……正直言って最悪だった。あいつ、本当に講義で言っていた恋愛における心理状態を延々と得意げに語ってさあ……昼休みだから腹が減るだろ? 腹が鳴ったら、今度は、人間の空腹時における心理状態って……気づいたことなら何でもその心理状態について俺らに言うんだぜ。もう最悪だわ」
変態のオチが終わったところで金城がようやく説明に入ってくれた。
金城の説明で分かる通りだが、木暮教授はとにかくしつこい。
最初に提示した心理状態を言う。そして、別の何かに気づいたら今度はその何かに対する心理状態を説明する。もう止めて欲しいと思った時に、もう止めて良いですか、と懇願すると、今度はどうして人は嫌な話を聞きたくないのかという心理状態……と、変にちょっかいを出すと、延々と心理について語るのだ。心理馬鹿――心理オタク――もうそんな表現では表現しきれないほどの化け物のような存在なのだ。
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