演奏の準備 reencuentroー最後の日常ー

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噂ではその所為で、丸一日講義をすっぽかしたとか、僕らと同じく延々と続く心理トークに耐えきれず、貧血や失神で倒れて犠牲になった生徒が後を絶たないだとか、とにかく悪い噂は絶えない。 生徒達の間では、これを『木暮教授の地獄の心理講義』と呼ぶほどで、最早最近ではこの大学の中で受ける罰としては、司法に例えるなら死刑同然の罰であるのだ。 僕らの場合、木暮教授が昼ご飯を食べていなかったから途中で終わったが、これが体力万端の状態だった時には、もう恐ろしくて夜も眠れない。 どうしてあんな自由奔放な教授が大学でのさばっているのかさっぱり分からなかった。学生の学習したいことを全力でサポートするのが教師の根幹では無いのだろうか? むしろあれは自分の私利私欲のためだけに動いている――言うなれば自分勝手な人と言った方が分かりやすい。 そんな人の一時間以上の特別講義と言う名の地獄を体験してきたのだ。 「それは大変だったこと。普通あの人の講義でぼーっとしたりお喋りしたりするのが自殺行為だって言うことは周知のはずよ。まあ、あんた達にとっては自業自得かしらね」   赤木がそう言うと、自分の昼食の残りを口に入れていった。 うっ……赤木にそう言われると、僕は何の反論も返せないんだよなあ。   赤木の言葉にも一理あるのは分かっているが、だが、仕方がなかったのだ。   人間何時も真面目になろうとなんて出来はしないというのが僕の考えだ。僕だってそれなりに真面目にやるが、さすがに疲れてくるとぼーっとする。   それに今日は遅刻しそうになって、さらに眠気をはらったことに対して体力を使ったのだから、それから真面目に勉強しようとなんて僕には出来ない。少しばかり休憩しないと出来る事も出来ないのだ。   と、僕は、赤木にそう言うと、彼女はため息をついて、 「ああ、はいはい。そんな言い訳を言えるくらいならその能力を勉強に使いなさいよね」   と、一蹴されてしまった。   はあ、とため息を吐くと、 「そうだよ~。寝坊はしちゃ駄目だし、勉強はちゃんとやらないと駄目だよ~」   と、今度は木戸までもが僕に駄目出しをしてきたのだ。 「ほら、摩耶もそう言ってるじゃない。反省しなさいよね」   さすがに、これは反論出来ない。 木戸が赤木に変わって注意されると、反論することも出来なくなる。  
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