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「お前だよ、お前! 全くノートも取らないで、じろじろと赤木を見つめて……。お、まさかお前、赤木に惚れたか? なるほど、分かった。それならそれでいいが、そういう色恋沙汰は余所の講義でやってくれないか? まあ、恋愛における心理を内容は違うがここで教えてやっても良いぞ。どうすれば恋愛を成功させることが出来るのか、私の経験からお前に教えてやってもいい」
注意されているのか貶されているのか分からなかったが、僕は自分の体温が高くなっていくのを感じた。
恐らく赤面しているはずだ。
そう、これが木暮教授の生徒の懲らしめ方なのだ。
注意するときは、ただ怒鳴って注意するのではなく、恥を掻かせてやるのが、一番効果がいい、と以前教授が豪語していたのを思い出した。
そうすれば、二度と教授に注意されたくないと躍起になって講義に身を入れるだろうと言っていたが、それを聞いた当時はあまり実感が無かった。
しかし、実際に体験してみると、これは確かに、かなり恥ずかしいものだった。
もう充分に反省した。許して欲しい。しかし、皆の前で言う自信は無かったので、僕は、小さい声で、
「すみません」
と、呟いた。
うう、聞こえなかっただろうな……と、少し自責の念に駆られてしまった。
だが、教授は見逃さなかったのだ。
「ん? どうした? 聞こえないぞ」
……なんという地獄耳だ。
おかしい。教壇から僕が座っている所まで十五メートルほどの距離がある。それなのに僕の半径一メートル以上離れた席に座っている生徒ですら聞こえない声をどうして教授は聞き取ることが出来るのだろうか?
もしかして、席に盗聴器でもつけているのだろうか――そう疑いたくなる。
聞こえたのなら、良かった。これでこの問題は終わった――そう思って、座ろうとした――はずだった。
辺りは静謐な雰囲気に包まれているのに、教授だけは、異常なまでの存在感を顕わにしていた。半笑いをした教授は、問題は終わったと思っている僕に一切の容赦はしなかったのだ。
「おい、まだ終わってないぞ。聞こえないと言っているんだ。言いたいことがあるならはっきり言え」
教授のマイクの音が大きくなっていった。
周りの生徒達が僕を一斉に見た。ああ、本当に恥ずかしい!
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