演奏の準備 reencuentroー最後の日常ー

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この状況をどうすれば打破できるだろう――僕の小さな頭ではそんな素晴らしい考えを一瞬で発言できるほどの力はない。 もうどうにでもなれ――僕は半ば自暴自棄になって大声で、 「申し訳ありませんでした! もう見とれたり、友人とお喋りをしたりしませんからどうかお願いします! 許してください!」   と、別に関係ないことまで告白してしまったのだった。   言い終えて、僕は荒い息づかいになっていた。言い切った感よりも、余計な事をしてしまったという気持ちでいっぱいだった。   周囲から女子達が、気づかれないように、クスクスと嘲笑しているのが分かった。それが分かっただけで余計に恥ずかしく、そして情けないと感じてしまっていた。   教授はそんな僕を見てニヤリと笑い、 「そうか。お前は講義中にお喋りもしていたのだな。よし、分かった。では後日お前とお前の友人達の講義中にどうしてお喋りしてしまうのか――その心理とその対策法について補講で教えてやろう。楽しみにしているがいい」   と、半ば嬉しそうに言いながら講義を再開した。   助かったのだろうか、と思いたいが、これはまずいことになった。   木暮教授は、やるといったら間違いなくやる人であるということを僕だけではなく、この大学に通う生徒全員が知っていた。   そして、女子達の嘲笑が今度は後日の補講という話に向いていった。   どうして、笑っている女子に対しては何も言わないのだろう――若干理不尽な気分で僕は座ってノート取りを再開しようとした。だが、ノートを取ろうにも、さっき教授に恥を掻かされた出来事の所為で、周囲から完全に笑われている――その所為で僕は全く講義に集中することが出来なかった。   突然、僕の座っている席から二席ほど前に座っている僕の友人の金城親彦が、僕を睨むなり、 「余計な事をしてくれたな」 と、半ば涙目で僕に小声で訴えていた。   すると、教授は、 「あー、訴えるのは後にしろよ、金城」   と、教授がまたもやその地獄耳で金城を注意した。教授は、今度は僕の時のように講義を中断はしなかった。だが、教授は黒板に重要事項を書きながら――金城の言葉など聞こえるはずが無いのに、何故か金城が喋ったことを見事に当てたのだ。   相変わらずすごい人だ――僕はその超人ぶりを目の当たりにしてそう思った。    
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