演奏の準備 reencuentroー最後の日常ー

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教授は、金城に注意した後、何事も無かったかのように講義を進めた。   これで、本当に終わったか――と、ようやく安堵した僕。 すると、 「災難ね」   と、後ろで、突然僕に小さく笑いながら、話しかけてくる女子の声が聞こえた。   僕は、ちらと振り向いたが、今まで会ったことも会話したこともない女子であった。   二年間大学に通っているが、彼女を見たことは一度も無い。   まあ、全校生徒と出会うなんて絶対あり得ないだろうから、ここで初対面してもおかしくないだろう。   彼女の言葉だってさほど対したことはないだろう。僕の現状を見て、災難、という言葉をかけるのは別におかしくもなんともない。むしろそれが当たり前だ。   僕は彼女の言葉に、ああ全くだ、と答えると、 「まだ懲りていないな?」   と、教授が僕を睨んでいた。   恐らく、この時間――僕はずっと教授に目をつけられることだろう――教授の目が鷹の眼光のように僕を捉えて離さなかった。   全く本当に災難である。   そして、金城はというと、注意された後、再び教壇の方を向いてノートを取り始めていた。するとしばらくして、一時それを中断して、何かをし始めた。そして、何かが完成したのだろうか、そのまま作り上げた何かを右手で掴んで僕の方へ放り投げる行動に出た。   金城が何かを投げたと知って、僕は慌ててそれを受け取った。教授はまだ黒板に書きながら説明を続けている。   僕は、金城が投げた物を確認した。それは、小さく丸められた紙であった。   僕は、中を見てみた。   しわくちゃな小さな紙には、 『後で覚悟しとけよ』 と、まるで僕と一対一の喧嘩を申し込むような挑戦的な内容が書かれていた。   金城がこう書くと、僕は非常に困るのだ。   喧嘩ならまだいい。だが、金城のこの言葉はあることに対するもので僕にとっては精魂を吸い取る悪魔の所業と言ってもいいくらいのものであった。   講義が終わったら急いで二時限目の教室に逃げ込もう――そう誓った矢先、教授は教壇の前に立って、
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