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――――ごめんね、サク。母さん今日帰れなくなっちゃった。
楽しみにしていたクリスマス当日。
ずっと約束していたのに、
母さんは仕事で帰って来られなくなった。
――――サクの好きなチョコケーキ、買ってあるからね。好きなだけ食べていいわよ。
――――先に寝てなさいね。夜更かしすると、サンタさんが来なくなっちゃうわよー。
「母さんのバカ!」
俺が楽しみにしていたのは、
クリスマスでも、ケーキでも、プレゼントでもなかった。
母さんと過ごすクリスマスが楽しみだった。
渋る母さんにお願いして、何日も前からずっと楽しみにしていた。
「母さんなんかキライ!大っキライ!」
まだ大人の世界の分からなかった俺は、
ただただ約束を破られたことが悲しくて。寂しくて。
思ってもないことを言って、母さんを傷つけた。
乱暴に受話器を置いた俺は、
カギも閉めずに家を飛び出した。
近所の公園でブランコに乗って、
ぼろぼろ泣きながらじっと母さんを待った。
母さんは迎えに来てくれる。
あの曲がり角から、“サク!”って、来てくれる。
きっともうすぐ。
あと少し。
寒くて寒くて。
手が悴んでも、耳がジンジンしても、
ずっとずっと母さんを待った。
泣きつかれた俺は、そのうち眠くなってきて。
遠くのイルミネーションをぼんやり眺めながら、
いつの間にか眠っていた。
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