序章【ウェンデルの涙】

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しかし、闇の中にありながらも一つだけ分かっている事がある。 魔素は環境に大きく左右され、その影響を強く受ける。 その環境とは……負のエネルギー。 怒り、悲しみ、憎しみ……陰の気によって魔素は変貌と遂げるのだ。 大剣の柄を握りしめるレオルの拳に、力が入る。 「レオル、あれ見て」 ハミィの指先に伸びる、中央の台座。 古代ウェンデル帝国の立派な装飾が描かれるそれは、玉座であろう。 そこに鎮座する……翡翠色の巨大な宝石。 まるで雫の様な滑らかな曲線を描きながらも、水の奔流の如く流れるような模様。 外界の光を一切拒む不透明、しかしそれでいて蒼色の輝きを放つ。 「あれが……ウェンデルの涙」 そう言葉にして、ハミィは喉を鳴らした。 誰にも聞こえない様に、静かに喉を鳴らした。 伝説上の秘宝が、すぐそこにある。 「……ハミィ、慎重にな」 その言葉はハミィの好奇心を掻き消した。 小さく顔を振り、もう一度緊張感を高めるハミィ。 (しっかりしろハミィ。 もう、同じ過ちは繰り返さないんだから) 何かを思い出すかの様に、静かに目を閉じる。 一体彼女は瞼の裏に何を見ているのか。 それは彼女にしか、分からない。
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