序章【ウェンデルの涙】

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水上古代遺跡。 水都、ウェルデールの外れに位置するここは非常に近寄りがたい雰囲気を醸し出している。 何故ならば、ここに入る者は余程の勇気ある者か、それとも大馬鹿者かの2つに限られるからだ。 古代遺跡とは名ばかりのものでそこは未開の地同然であり、当時のままを残している。その大きな理由は魔獣の存在。野生の魔獣と違い古代遺跡に生息する魔獣はその場所に何人たりとも侵入を許さないという宿命を背負っているのだ。それは数千年たった今でも色褪せる事なく、魔獣達は静かに、静かに、遺跡を守り続けているのだ。 そんな、人が足を踏み入れる事を許されない場所に、彼女らの姿はあった。 「罠掻い潜って魔獣蹴散らして、そんでもって次は出口の見えない吊り橋? 手が込みすぎでしょこの遺跡」 老朽化の著しい吊り橋をスタスタと歩くこの少年。 大きな欠伸を欠いたその表情は、怠惰の一文字がでかでかと現れている。 「そんなに文句ばっかり言わないの!」 その隣を歩くのは、少女。 「レオルはさっきから文句ばっかり! ハミィだって疲れてるんだからね!」 そう地団駄を踏む少女の合わせて吊り橋が揺れる、揺れる、揺れる。 思わず大勢を崩しそうになった少年が慌てて少女の動きを制止する。 「ちょ、わ、わかったって! 俺が悪かったよ!」 むくっと膨れる少女の肩に手を置く少年のため息がひっそりと静寂に溶け込んだ。 「……それで、ウェンデルの涙ってそんな貴重なものなの?」 レオルと呼ばれた少年は頭の後ろで両手を組み、ふとそんな事を口にした。 不機嫌にしてしまった少女と、1時間ぶりの会話である。 出口は未だ見えてこない。
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