嫉妬

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「別にあなた如きが持ち合わせているお金をせびろうなんて考えてないわ。だいたい、庶民のはした金をアイドルであるこの私が欲しがるわけないでしょ」 「ですよね。庶民のはした金なんて、……へ、アイドル?」 「そう、アイドル」 彼女は腕を組んで、慎ましい胸を誇張させる。ニット帽の唾の陰で顔が良く見えなかったが、確かにマジマジと確認してみれば美形である。 「そうなんだ。で、もう学校の一時間目の講座が始まるので自転車を解放してもらえませんか」 「ちょっ、ちょっと! あんた、もう少し他に言うことあるでしょうが」 「例えば?」 「サイン下さいとか、ドラマに出ている事とか、昨日出演していたバラエティー番組のこととか」 とおっしゃられても、僕は全く芸能業界の事を知らない。もともとテレビはあまり見ないから、昨日のバラエティー番組の事なんてさっぱりだ。
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