嫉妬

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明かりで周りを一周してから中に足を踏み入れる。汗が引いて、背筋に悪寒が走る。 「和束さーん!」 手を口元にやり、大声を上げる。廃工場は空っぽで声が良く反射する。 暫時、返事を待ったが返ってくる気配がない。どうやら、自力でどこかに行ったらしい。 まあ、マネージャーが探していたらしいことを言っていたし、大方その人に保護してもらったのだろう。なら、僕の出番はもうないか。 なら帰るか、と踵を返したところでゴロンと物が転がる音が耳朶に触れる。続いて、少女のすすり泣く声。 まさか、出たのか。背筋が凍り付く。直立不動で、その場から慌てて逃げることなく僕はフリーズする。 何年間も油を挿していないロボットの如く、震える体を押さえつけゆっくりと後ろを振り返る。
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