嫉妬

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「言えるよ。頑張れって。社会の波に飲み込まれるなって」 だって、僕たちはそういう立ち位置で生きていくしかないんだ。友達がいない、毎日がつらい。それでも頑張らないと、きっと誰かが悲しむ。 たぶん彼女と僕が違うのは、いる場所じゃなくて大切な人だけだ。ファンなのか、たった一人の大切な人なのか、それだけの差だ。 本当は優しい言葉を掛けるなんて毛頭もなかった。しかし、似たような人間を視界に入らないふりをすることも僕にはできそうにない。有言無実行とは正にこのこと。 どうしようもない彼女には明確な人が必要なのだと考える。だから、僕がそれを担おう。 「だったら僕がここで和束に宣言するよ」 そう言って、高校野球の選手宣誓の如く手を地面に向かって垂直に伸ばす。真摯に和束のうるんだ瞳をしっかりと捕らえる。 これくらいならユキは許してくれるよね。 「僕が和束さんの友達になることを、ここで誓います!」 不器用な僕は不器用なりに人を助けようと思う。この言葉で彼女が救われるのかどうかなんてわからない。けどそれで彼女が明日をやっていけるならそれが一番いいことだと思う。
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