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「だからさ――」
「なんでそこまで……今日会ったばかりのあたしになんでそこまでするの?」
濡れた瞳が、一心に向けられる。どうしてそう聞かれて、理由がちゃんとあるのが僕だ。残念だけど、どっかの主人公みたく訳もなく人を助けることは出来ない。
「なぜだろう。けど、分からないけど、そうしなきゃいけないような気がしたんだ」
こうして僕は嘘を吐いた。本当は知っている。どうしてここまで彼女に肩入れするのかを。
似た者同士。それこそ獅子君に言った、同じ穴の狢だと思ったからだ。
別にそれ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけの理由である。
けど、これを彼女に伝えるのは酷だと思った。
「あーあ。あんたのバカな宣言見ていたら、涙が枯れちゃったのを通り越してあきれちゃったわよ。……分かった。もう帰るね」
ここにきて、彼女は笑みを浮かべる。たぶんそれは、芸人として被った面なのではなく、嘘偽りのない笑顔だと僕は思う。
「だから、はい」
掴んでいた裾から手をはなすと、こちらに手を差し出してくる。ジェスチャーからして何かよこせと言っているのが読み取れた。
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