嫉妬

37/40
前へ
/148ページ
次へ
「だからさ――」 「なんでそこまで……今日会ったばかりのあたしになんでそこまでするの?」 濡れた瞳が、一心に向けられる。どうしてそう聞かれて、理由がちゃんとあるのが僕だ。残念だけど、どっかの主人公みたく訳もなく人を助けることは出来ない。 「なぜだろう。けど、分からないけど、そうしなきゃいけないような気がしたんだ」 こうして僕は嘘を吐いた。本当は知っている。どうしてここまで彼女に肩入れするのかを。 似た者同士。それこそ獅子君に言った、同じ穴の狢だと思ったからだ。 別にそれ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけの理由である。 けど、これを彼女に伝えるのは酷だと思った。 「あーあ。あんたのバカな宣言見ていたら、涙が枯れちゃったのを通り越してあきれちゃったわよ。……分かった。もう帰るね」 ここにきて、彼女は笑みを浮かべる。たぶんそれは、芸人として被った面なのではなく、嘘偽りのない笑顔だと僕は思う。 「だから、はい」 掴んでいた裾から手をはなすと、こちらに手を差し出してくる。ジェスチャーからして何かよこせと言っているのが読み取れた。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加