嫉妬

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それに対してどう対応していいかわからなかった。一般男性なら喜んで教える場面だろうが、僕にとってはそうもいかないのが現状だ。 こちらの反応が露骨表れていたのか、やっぱダメかと悲しそうな声を漏らす。 「そうじゃないんだよ、ただ書くもの持ってな来てないからどうしようかと思って」 和束の見解に慌てて訂正を加える。先ほど彼女の友達になると選手宣誓した手前、無下に断ることができない。 「それなら、気にしなくていいわよ。ほらっ」 食べ物を前にしたチワワのように、目を光輝させた彼女は内ポケットから黒いマジックペンを出してきた。携帯も財布もないのにペンは持っているのか。どういうことなの? 説明プリーズ。眼力だけでそれを伝えてみると、理解できたのかどうか定かではないが機嫌が良くなった彼女が教えてくれる。 「たまにサインを書く仕事とかあるのよ。ほら、ライブが終わった後にサイン会とか。その時に書きやすい愛用のペンじゃないと上手く筆がのらないのよ。だから常時持ち歩いているの」 なら、売れっ子芸能人として携帯も常備しとけよ。おかげ様で、されど十円が取られちゃったじゃないか。
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