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僕が彼女に告白したのは、出逢って十六年も経ったあとのことだった。
でも、遅すぎたなんて後悔は微塵もない。
だって、目の前に座る彼女の笑顔は、幸せそのものだからだ。
「乾杯」
「ふふっ、乾杯」
僕がグラスを掲げると、彼女は照れながらも幸せそうな笑顔で自分のグラスを軽く押し当てた。
グラスは控えめに音を立て、中身であるオレンジジュースが波紋を広げる。
僕らはどちらともなく一口飲み、それからグラスを置いて改めて小さく微笑んだ。
「なんだか変な気分」
彼女がくすぐったそうに言った。
「いつも一緒にいた幼なじみのきみが私の彼氏だなんて。冗談みたい」
「じゃあ、キスでもしてみる? そうしたら少しは分かるかも」
僕は慌てる彼女が見たくてちょっと意地悪な質問を投げかけた。
しかし、彼女は動揺するどころか余裕の笑みでそれをかわす。
「その度胸があるならご自由にどうぞ。オオカミさん」
上目遣いで彼女が挑発してくる。
僕はあえなく参りました、と両手を挙げた。
それを見て彼女はクスクスと笑う。
気が付けば、僕もつられて笑っていた。
やっぱり彼女にはかなわないな。
でも、そんな冗談すらも言い合えることに言い表すことのできない幸せを感じていた。
もともと仲が良かった僕たちだったけれど、今みたいな関係になったのはつい最近のことだ。
僕が幼なじみの遠坂真冬に告白したのは、つい一週間前の出来事だった。
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