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しかし、浴びせられる同級生たちの好奇の視線を前に、僕は怖気づいていた。
真冬の気持ちを受け入れることでこのままみんなから仲間はずれにされるんじゃないか。
残念ながら、それを理解できないほど僕は子どもじゃなかった。
だから迷ってしまった。一度迷うと、真冬に言おうと思ったちっぽけな気持ちはその恐怖にあっと言う間に飲まれた。
僕は真冬ではなく、自分をとったのだ。
気が付くと──僕はみんなの前で真冬の手を思い切り振り払っていた。
真冬は何をされたのか理解できないといった顔で茫然と僕を見つめ、やがて無表情のまま静かに泣き出した。
今でも忘れることのできないあの表情。
手がしびれる。その痛みが、じわじわと僕の犯した過ちを教えてくれた。
しかし、その時にはもう手遅れだった。
日常の壊れる音がした。
僕はそれを受け止めることができなくて、真冬おいてその場から逃げた。
生まれて初めての一人での帰り道だった。
逃げたら楽になれる。そう思ったのに。
一人になって僕におとずれたもの。それは、味わったことのない喪失感と身を裂かれるような心の痛みだった。
それがちょうどひと月前のことだ。
それから僕は真冬とまったく口をきかなくなり、同級生たちも僕らを気にしてクラスがギスギスしていた。
そんな日々がしばらく続き、僕は日に日に真冬の存在の大切さを思い知らされた。
隣に彼女がいないだけでこんなに苦しいなんて、知らなかった。
でも、その一方で、僕は胸の一番奥深くで光輝く気持ちを見つけることができた。
この十六年間、いつも感じていた僕にとって当たり前であり、もっとも大切にしてきた想い。
そして、一週間前。
僕は学校が終わると真冬を屋上に呼び出し、その気持ちを伝えた。
難しい言葉はなく、ただ一言。
『僕は、真冬のことが好きだ』
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