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「……何をしてるんですか?」
..
いつもの刹那より低い声が、部屋へと響いた。珍しく怒りを露にしている彼女に、誰もが驚愕の念を向ける。
ただ一人、芹沢を除いて。
「刹那、どうした?機嫌が悪いな」
「……質問に答えてください、何をしてるんですか?」
彼女の視線の先には、芹沢。そして、芹沢の手には刀と───泣きすがる女。
「ふん、この女は遊女の分際で儂に楯突いたからな。躾だ」
刹那は眉を顰め、芹沢を容赦なく睨み付ける。自分が席を少し外した間に、まさかこんなことになっているとは。自分の迂闊さを呪う他ない。
どうやら芹沢は躾と称し、遊女の髪を切るつもりらしい。髪は女の命、そんなことをされれば彼女は遊女として働くのはもう困難かもしれない。身体的にも、精神的にも。
「良い加減にしてください。その人は貴方の下についている人間でもなければ、道具でもありません。一人の人間ですよ?」
刹那は溜め息を溢しながら、芹沢へと近付いていく。その様子を誰もが不安げな瞳で見つめるが、特別気にするでもなく歩みを止めることはなかった。
この場で芹沢を止められるのは彼女だけだと誰もが本能的に理解している為、他の者が止めることはない。近藤も、沖田も、土方でさえ。
「芹沢さん。刀を収めてください」
「無理な相談だな」
「……何度も同じことを言わせるつもりですか?刀を収めてください、芹沢さん」
「……随分と情にあつくなったもんだな。お主が言えることか?───美夜」
ガッ…!
不意に、鈍い音が響いた。……芹沢の手から刀が落ちた音である。
「芹沢さん、悪いですが私は今、とても機嫌が悪いんです。
それ以上何か言うつもりなら、いくら貴方でも容赦しませんよ?」
そう言った美夜の手に握られていたのは、クナイだった。抑えきれない苛立ちとともに、そのクナイは芹沢の首もとへと当てられている。
うっすらと、芹沢の首筋に紅が滲んだ。
「……わかった、降参だ」
芹沢の乾いた声と笑みに、美夜は何も言わずにクナイを下ろした。
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