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こういう時、芹沢の洞察力の鋭さに脱帽すると共に自身の未熟さが思い知らされる。 あの時だって、やろうと思えば……何を迷う必要があったのか。自分なら出来たはずだ、なのに、なのに───出来なかった。 「……私情です」 「……お主が冷静じゃなくなるなど、限られているからな。 大方復讐相手にでも出会ったか?」 芹沢の言葉に、美夜は何も答えることが出来なかった。事実だからだ。 ここで否定したって見破られるだろう。今の彼女は思っている以上に動揺をしていて、嘘を吐ける状態ではないのだから。 「ふっ、図星か。 ……殺し損ねた───いや、殺せなかったのか」 「っ───! ……口が過ぎますよ、そんなに死にたいんですか?」 「ククッ、そう怒るな」 芹沢はもう一度喉を鳴らして笑った。そこには何処か冷ややかなものが宿っており、部屋の空気が下がっている気さえしてくる。 「だが、今のお主に儂を殺せるか?」 「……何が言いたいんです?」 「目的を忘れてくれるなよ、儂が好きなのは復讐に燃える美夜、お主の狂気だ。 情に絆され、目の前の出来事だけに流されるなよ」 「……良い趣味をお持ちのようで」 思わず舌を打ちそうになるのを堪え、精一杯の皮肉を返す美夜に、芹沢はやはり冷たい視線を向けた。 その冷たさに隠された優しさがあることを、冷静さを欠いた今の美夜に知る術はない。そして、きっとこの先も。 芹沢はこれからも、こうやって悪者ぶって生きていくのだろう。彼にはこの生き方しかないから。  
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