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(……そうだ、私は殺さなかった。殺せなかった) その事実に悔しさと目眩を覚え、美夜は自身の下唇を無意識に強く噛んだ。 そうでもしないと色んな感情が爆発し、形となって───涙となって表れてしまいそうだったから。 (沖田さんを危険に遭わせたくない、なんてただの自分を納得させる為の言い訳よ。 本当は、本当は───) こわかった。 彼を殺すことが、美夜にはこわくて堪らなかったのだ。 こわくて、怖くて、恐くて……復讐をすると決めていたはずなのに、できなかった。どうしても。 裏切られたとはいえ、吉田はかつての仲間で、大切な人で。その人をどれだけ憎んでいたとしても、楽しかった頃の記憶が甦ってしまうから。 戸惑いと、情を生んだのだ。 (……ごめんね、咲夜) 人知れず謝罪を述べると、美夜は芹沢から他の幹部達へと視線を移した。 近藤、土方、新見、藤堂、原田、永倉、斎藤───沖田。此処にいるのはそれだけだ。 芹沢は床に投げ出された刀を拾い上げると、鞘に収める。そしてその場にドカッと乱暴に座った。 「美夜、お主も座れ」 「……はい」 全く悪びれもない様子で自身の本名を口にする芹沢に、怒りを通り越して呆れさえ覚える。 もう刹那で通すことは不可能だろうな、と美夜は悟った。 芹沢に促されるままに───多少癪ではあるが、美夜はその場に腰を下ろす。瞬間、一層強まった殺気ともとれる視線。 美夜はそれに苦笑を溢しながら、その視線の主へと言葉を投げた。 「さて……話しますから、あまり睨まないでくださいよ、土方さん」  
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