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「では……何処から話しましょうか」
美夜は右手を顎にあて、考える素振りを見せる。その姿はいつもの刹那のようで、刹那ではない。
「……まず、お前は敵か?味方か?」
土方の鋭く的確な問い掛けに、美夜は苦笑を漏らし答えた。
「そうですね……どちらでもない、と答えておきましょう。
ただ、素性を隠していた点で言えば私は裏切り者なんでしょうね」
にっこり。
いつも見ている刹那の笑みに、これ程までに恐怖を感じたことがあっただろうか───?
と、土方は思う。
無邪気な笑みを浮かべながら、彼女はずっと我々を騙していたのだ。なんて残酷なことだろう。
(……最近感じていやがった違和感はこれか)
ちっ、と土方は一人でに舌を打つと美夜から芹沢へと視線を移した。
「芹沢さんは刹那───いや、美夜のことを知っていたんですか?知っていて俺達に黙っていたんですか」
怒気の籠った言葉に、慣れない敬語。何ともミスマッチな組み合わせに、美夜は小さく笑みを溢した。
そんな美夜を芹沢は呆れた視線で見やる。
「ある程度は知っていたがな……詳しいことは知らん。重要なことをこいつは隠すからな」
芹沢のその言葉に、美夜は曖昧に笑った。
「美夜さん……一つ、聞いても?」
次いで口を開いたのは、沖田。美夜は少しだけ早まった鼓動に気付かぬ振りをして、やはり笑う。
「……何ですか?沖田さん」
「美夜さんが前言っていた、やるべきことと言うのは───復讐、ですか?」
「……どうでしょうね」
沖田の不安気な瞳に、少しだけ心が揺れるのを感じた。その感覚に戸惑う自分がいることも。
らしくない、と自分に言い聞かせ、平然を装う。
沖田はきっと心配しているのだろう、美夜のことを。けれど、美夜にとってそれは嬉しい反面、邪魔でもあった。
彼女の復讐を妨げることになるであろう、沖田の感情が。
(ほら、だって今でさえ───)
沖田に、全部を話してしまいたくなる。
ずっと誰にも言わず、言えず、内に秘めてきた想いを独りで抱えているのは、正直辛かった。
大人びてはいても彼女は二十歳にも満たない少女で。
話すことが出来たらどんなに、どんなに、楽になれることだろう。
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