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"助けてほしい"
そんなことを何度も考えた時期があった。もう何年も前のこと。
師も仲間も居場所も失い、復讐にだけ生きていた頃。あの頃は自身にも立派な感情があった。
助けて、悲しい、辛い、苦しい、寂しい
人間らしい感情が。けれど、今はどうだろう。そんな感情はとうに薄れてしまったはずだったのに───
(私は、今更……助けてほしいと、願っているの?)
馬鹿馬鹿しい。いつもならそんな言葉で否定していた。だが、今回はそんな言葉で否定できる程簡単な問題ではない。
気のせいなんかでは済ませられないくらい、自分は助けを求めているのだから。
「……他に質問は?」
これ以上考えてはいけない、と美夜の中の何かが警告をした。美夜はそれに従うように、考えることを放棄しこの場にいる他の者に質問がないかと促す。
おずおずと手を挙げたのは───藤堂。
「……あの、さ。刹那、いや、美夜?は……さっきの場面を見る限り強そうだったんだけど……どれくらいの実力があるの?」
しどろもどろになりながらも、藤堂は率直な疑問を述べた。確かにあの場面───美夜が芹沢にクナイを突き付ける場面を見てしまえば、問わずにはいられないだろう。
だからこそ誤魔化しもきかない。
(……最悪ね、冷静さを失っていたとはいえ有り得ないわ、私もまだまだってことかしら)
美夜は己の先程の行動を悔やんだ。あまりにも無謀すぎた、と。
これでは自身の正体がかの人斬り───白狐だとバレてしまうのは時間の問題ではないか。
(あぁ、本当に今日は───)
「ついてない」
はっ、と自虐的な笑みとともに、そんな言葉が美夜から漏れた。
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