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「……別に腕試しは良いですけど、私はこれからどうすればいいんですか?出て行きましょうか?」
美夜は小さく溜め息を吐いてから、幹部達をぐるりと一瞥した。冷たい瞳、と。誰もがヒヤリと薄ら寒さを感じるものだった。
「……嫌だ」
「え?」
「嫌だ。美夜さんが出ていくなんて、僕は嫌」
「……うわぁ」
思わず顔を顰める美夜に対し、沖田は駄々っ子の様に地団駄を踏み始める。嫌だ嫌だと言いながら。完全に幼児化している。
普段の敬語も、遠慮も。今の彼にはなかった。
呆気にとられる幹部達の中で、芹沢だけはニヤニヤと笑い美夜を見つめる。美夜はその視線に気付き、小さく舌を打った。
「余程好かれているのだな、お主」
「……好きで好かれているんじゃありません」
そう言った美夜の頬が微かに赤くなっていたのを、芹沢は見逃さない。
(……そうか、美夜。お主は沖田のことを───)
芹沢は何だか、娘をとられた父のような気持ちになった。世の父親達は、こんな気持ちを経験してきたのか、と思いを馳せる。
これは中々なものだ……、芹沢はそう呟き、苦笑いを零したのだった。
「……いいんじゃねぇか?間者とかではないんだろ、なら今のまま女中をやってもらった方が良い」
口を開いたのは、原田。
頭を乱暴に掻きながら、土方や近藤に気まずそうに訴える。土方は目の前の酒を静かに啜りながら、近藤の返事を待っているようだった。
「……そうだな。私もそれが良い。壬生浪士組には女中がいない。いなくなってしまえば、食事も洗濯も大変なことになってしまう」
それに───、と、近藤は続ける。
「総司も芹沢さんも、皆彼女のことを気に入っているようだからね」
「近藤さん!ありがとうございます!!」
一番最初に返事をしたのは、美夜ではなく沖田だった。ははっ、と。芹沢は扇子を仰ぎながら豪快に笑う。
「美夜くん、それで良いかな?」
「はい。私は皆さんの判断にお任せします」
敵か味方かも。
そう付け足して、美夜はにこりと笑った。その発言に挑発された土方が苦い顔をするが、近藤に宥められ渋々ながらも黙るのだった。
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