拝啓

2/2
204人が本棚に入れています
本棚に追加
/123ページ
 お久し振りです。  貴方に文を書くのは、二年ぶりですね。如何お過ごしですか?  貴方と離れてから、もうこんなにも時が経ってしまいました。  知っていますか?人は人を忘れていく時、声から忘れていくのだそうです。  ……私はもう、貴方の声を思い出すことができません。  貴方と過ごした日々の残滓は、確かにそこにあるのに。  貴方と見た桜、貴方と歩いた橋、貴方と遊んだ川……貴方がくれた、髪飾り。貴方の面影は残っているのに、声だけは思い出せない。  貴方は「二年も会っていなければ当たり前だ」と、そう言って笑うことでしょう。 それでも私には、思い出せないことが寂しくて仕方が無いのです。  貴方の栗色の綺麗な髪、意地悪そうに笑う顔、私の髪を耳に掛けてくれるその仕草。  いつか同じように思い出せなくなり、思い出せないことすら、忘れてしまうのでしょうか。  ……この文が届くかは分かりませんが、もし届いたのなら一度。  私に、会いに来てくれませんか?  ……どうか。どうか私が、貴方を忘れてしまうその前に。                  月無 美夜  
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!