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「それで、白狐ってどんな人なんですか?」
「……お前、今まで何を聞いていたんだ?」
パッと満面の笑みを土方に向ける沖田。全く悪びれもない様子の彼に、怒りも忘れて呆けてしまった。
それもその筈。
沖田と土方が所属する壬生浪士組では、白狐をずっと捜していたのだ。
白狐を追い続けて、早三ヶ月。
それなりに白狐の情報は集まっていて、その情報は白狐を捜す為に必要不可欠なもの。
故に白狐の情報は、壬生浪士組隊士の耳にも入ってきているのだが──沖田は何も知らないらしい。一隊長を担う彼がこの調子では、捕まるものも捕まらないではないか。
「白狐は狐面を付けた二刀流の、ふざけた野郎だ」
「二刀流ですか!?珍しいですね……!」
驚いたような、興奮したような顔で沖田は思わず感嘆の息を漏らした。その様子から察するに、彼は本当に何も知らなかったらしい。
副長助勤としてそれはどうなんだ……、と土方は人知れず呟く。
「ふふっ、二刀流がそんなに珍しいん?」
───不意に。
声が、聞こえた。凛とした、鈴を転がすようなそれはとても楽しげで、場違いなものに思える。例えるならば、幼い子どものそれと似ていた。
「あぁ、でも確かに二刀流は見ぃひんね。ほんなら珍しいんかなぁ」
“どう思う?”
頭上から聞こえた声は、土方と沖田に問い掛けた。
陽気でお喋りな声に一瞬ポカンとしてしまうが、いち早く我を取り戻した沖田は声の主に目をやった。
「……貴方が、白狐ですか?」
沖田と土方の視線の先にあるのは、民家の屋根に腰掛けている女。
髪の色も、着物の色も、夜の暗さで正確にはわからない。ただ分かるのは、不気味に笑う狐の面だけだった。
「白狐?うち、白狐って呼ばれてるん?」
何が可笑しいのか、白狐はくすくすと楽しげに笑う。土方は思わず眉根を寄せた。
「──狙いは何だ?」
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