狐の噂

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 そんな土方の心情を知ってか知らずか、白狐はもう一度、笑った。狐面のせいでその表情を拝むことは叶わないが。 「少し調べれば分かることやで?  うちが今まで殺めてきたのは、あんたら壬生狼にとっても邪魔な存在や。  ────勿論、これから殺める奴等も」 「……どういう意味ですか?」 「そのまんまの意味や。  ……そうやなぁ。今日は月が綺麗やし、一つだけ教えたる」  白狐はゆっくりと、狐面を外す。  それと同時に───いや、まるで計っていたかのように、美しく紅い月は雲に隠れた。  ............ 「私は、復讐をしたいだけよ」  月が隠れ、明かりは消える。静寂と夜の闇に支配されたその場所では、白狐の顔は見えない。それを幸と捉えるか不幸と捉えるかは彼等次第だろう。  ただ一つ、分かるのは── 「紅い、瞳……?」  沖田が呆然と呟く。  白狐の紅い瞳に宿るのは、息をすることさえ許されないような狂気。  抗うことさえ許されないようなそれは、一種の魅力のようにも思える。 「うちはこれで失礼するわ。精々頑張りぃ。うちを捕まえられるように、な……」  ゆっくりと、雲に隠れていた月が姿を現す。  それとは裏腹に、月が完全に姿を現す頃には白狐は消えていた。まるで最初から彼女はそこに存在しなかったかのように。    
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