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「……まさか女だったなんてな」
取り残された土方は、未だ信じられないとでも言いたげな表情で、呟いた。そうだ、まるで狐にでも抓まれたような気分だ。
「……復讐、か……」
嗅ぎ慣れない……否、嗅ぎ慣れたくはない鉄の独特な匂いが、辺りに立ち込める。
彼等は禍々しい程の狂気に呑み込まれそうになるのを、あと一歩のところで何とか踏みとどまっているのだ。
か細い手に、小さい身体。
白狐と名乗った狐面の女の笑い声が、二人の頭の中に鮮明に記憶される。忘れたくてもきっと、忘れることは出来ないのだろう。
そんな予感がした。小さいけれど、確かな予感が。
────一方。
「……あれが壬生狼の天才剣士と鬼さん、ね」
沖田と土方が居た場所から少し離れた所で、狐面を右手に持った女。
その声は驚くほどに冷たく鋭いばかりか、先程までの訛りがない。
その女……いや、少女と言うべきだろうか。
まだ幼さの残る端整な顔立ちをした、色白の少女。その紅い瞳には、狂気の中に哀しみと苦しみ、少しの切なさが見え隠れしている。
秋の風にその綺麗な亜麻色の髪を預けながら、少女は自身の腰にある二つの刀を撫でた。
「あと少し……」
形の良い唇で小さく言葉を紡いで、少女は妖艶に笑う。
「貴方のいないこの世界は、どうにも息がしにくいわ」
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